Trip&Hug

旅のこと、日々のこと。

Don't Forget Your Roots

初めてNZに来たのは今から12年も前。Palmerston Northという田舎町で英語を学び、ホームステイをしていた。初めての海外、初めての留学で当時のことは今でも鮮明に覚えている。

私がいたクラスでは毎朝英語の歌、Maoriの歌を歌う時間があった。Disneyの歌やBob Marleyなど有名な曲もあれば、NZ出身のアーティストの曲もあった。その時に初めて出会ったのが、SIX60だった。

SIX60はNZの南島にあるDunedin出身のバンド。そのクラスで毎回歌っていたSIX60の曲は"Don't Forget Your Roots" この曲のMVにはDunedinの街の風景が映し出されている。私はこのバンドが好きになり、帰国後も何度も聴いていた。

 

2019年に日本でラグビーワールドカップが開催された際、SIX60のメンバーも日本に来てラグビーを観戦していた。好きなバンドのメンバーが日本に来ている!と興奮しつつ、彼らのSNSをみていた。そんな中、SIX60が渋谷のライブハウスでライブをするという情報をTwitterを介して教えてもらった。これは行かなければ!とすぐにチケットを購入し、仕事終わりに会場に向かった。ライブハウスの前にはすでに長蛇の列、ほとんどがKIWIだったと思う。列に並んで待っていると、一人のKIWIのおじさんが話しかけてきた。Palmerston Northで初めて彼らのことを知ったこと、ラグビーのことなどを話したと思う。するとさらにその前に並んでいた女性がPalmerston Northの大学に通っていたよ!!と声をかけてきた。渋谷にいながら、このフレンドリーな感じはNew Zealandだ、と嬉しかった。

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ライブが始まると小さなライブハウスは熱くなり、みなSIX60の音楽を楽しんでた。そして、私が大好きな曲”Don't Forget Your Roots”を生で聞くことができ、感慨深いものがあった。

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2024年2月 今度はNZでSIX60のコンサートを見ることになった。というのも、バンドメンバーであるEli Paewaiがそのコンサートを持って脱退することを発表したからだ。

いつか見に行けるだろうと思っていたSIX60のコンサートをこんな形で見ることになるとは。

SIX60はメインの大きなステージで大トリの前に演奏、会場にはたくさんの人たちが集まっていた。はじめにEliが登場すると続々とメンバーが登場し、一曲目がスタートする。最初の曲は、”Don't Forget Your Roots”であった。イントロを聞いた瞬間、色々な思いが込み上げて思わず涙してしまった。12年前の私は彼らのコンサートを生で、NZで見ることなんて予想できなかったであろう。12年前にこの曲に出会ってよかった、彼らに出会えてよかったと心から思った。

コンサートは終始盛り上がっていて、周りのKIWIは全ての曲を熱唱、気持ちよさそうに踊っていた。最後の曲はForeverという曲、Eliは涙し、ボーカルのMatiuは歌詞を変えて、”We are forever”と歌っていた。曲が終わると、Eliとメンバーは惜しむようにハグをして、Eliはドラムスティックをステージに置き、去っていった。

美しくて、切ない、彼らの新たな出発を表したステージだった。きっと、この日聞いた”Don't  Forget Your Roots”は忘れることはないだろう。

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〈あの絵〉のまえで

掃除の仕事で伺った部屋にKlimtのThe Kissという作品が飾られていた。私はKlimtも好きで、特にThe Kissは一番好きな絵だった。そのお部屋に住むオーナーからは、絵の飾られている部屋には入らないで、と言われていたので、"その絵好きなんです"と言っていいものかどうか、躊躇していた。

しかし、訪問回数が増えていくうちに会話も増え、と言っても私が勝手に話しているのだが‥これは言ってもいいのかもしれないというタイミングが見えてきた。

ある日、尋ねてみた。"あの絵、KlimtのThe Kissですよね、私好きなんです"と。すると、オーナーの彼女の表情はぱあっと明るくなった。日本にいたときに、Klimtのエキシビションを見に行ったこと、他にも好きなアーティストがいることを伝えると、彼女はKlimtの色合いが好きなこと、イングランド出身の風景画家が好きなことを教えてくれた。

彼女から「日本ではいつKlimtのエキシビジョンに行ったの?」と聞かれ、なぜそんなことを聞くのだろう?と不思議に思った。私は友人と週末に見に行ったと記憶していたのでそれを伝えると、彼女はKlimtのエキシビジョンを見るためにオーストラリアに行ったそうだ。

そうだ、ここはニュージーランドであった。

日本、特に東京に住んでいた時にはエキシビジョンもアーティストのライブも身近で行こうと思えば行くことができた。しかし、ここは違う。大物アーティストのワールドツアーもこの国には来なかったり、エキシビションもオーストラリアに見に行かないと見れないのだ。

東京に住んでいると麻痺してしまう感覚に気づいた時であった。

 

家に帰り、フラットに住むオーナーさんに出来事を話すと、共感してくれた。

また、原田マハさんの本"〈あの絵〉のまえで"を教えてもらった。この本は短編集で、6つの絵に関するストーリーが描かれており、どれもみな私の心に響くものがあった。何より、原田さんはその絵を愛しているのだな、と感じた。

この本に出てくる絵はどれも日本に貯蔵されている絵たち。直島にある地中美術館のモネのみ見たことはあったが、他の作品は見たことがなかった。帰国の際には、どれか一つでも行って、見てみたい、と思った。

絵にはストーリーがあると思う。作者がどのような環境で、思いで描いたというストーリー。そして、見る側がどのような思いで見る、共有する、その絵についての出来事というストーリー。KlimtのThe Kissはあの部屋に住む彼女との会話、原田マハさんの〈あの絵〉のまえでを知るきっかけを作ってくれた絵となった。

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後日談

来週から実習が始まるため、今日でKlimtのお部屋のオーナーの掃除は終わり、別の人へと引き継ぐことになった。話ができて嬉しかったのと、お会いできた感謝を込めてカードを書いてお渡しした。そのカードにはKlimtモチーフの猫が描かれており、私のお気に入りの一つだった。

"下手な英語で恥ずかしいけどよかったら読んでください"と渡すと、"あなたの英語は素晴らしいよ、これKlimtね"、"また会いましょう"と嬉しそうに貰ってくださった。

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↑こちらはそのモチーフのスティッカー。

色合いも美しさも再現されていて、とてもかわいい。

See you around/Port Hillsの炎

今日で学校での授業は終わり、来週からは実習が始まる。クラスが始まった時には、いつまでも続くようなそんな気がしていたのに時間は早いもの。あっという間に25週間が終わった。

最後ということで、シェアランチパーティーをして、ゲームをして別れを惜しむ。

私たちのクラスよりもあとに入ってきたクラスメイトが花と歌のプレゼントをくれ、グッときた。

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いつもなら、See you next week!と言って別れるのに、今日は違った。Take care, enjoy the classと言って、強くハグをして、またいつか会える時のことを願った。年齢も国籍も違うクラスメイトたち。色々な刺激をもらい、愛おしいなと思える人たちだった。

学校が終わってからは、何人かのクラスメイトとアクティビティと称してカヤックに乗りに行き、その後ピクニックをした。何十年ぶりのカヤック、開始5分で肩と腕が痛かった…終わった頃には上半身の痛みと下半身びしょ濡れといういいお土産をもらった。

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カヤックからの帰り、ピクニックをする公園に向かう途中で丘側から煙が上がっているのが見えた。あれは何だろう?山火事かな?と車中で友人と話していた。公園に到着するとフラットのオーナーさんから”ポートヒルズで山火事”というLINEが入っているのに気づく。ポートヒルズは私の住む家からよく見える。以前、近くのトレッキングコースも歩いたことのある場所だった。

帰ってきて、フラットのオーナーさんに”鎮火しましたか?”と聞くと、まだ燃え続けているとのことだった。自分の部屋から、家の庭からも煙が見え、日が落ちると明るい炎まで見えた。その周りを飛ぶヘリコプターもよく見えた。私の家からこんなに明るい炎が見えるということは現場の火はとても大きいのだろうと予想がつく。オーナーさんは山火事の現場の近くに職場があるそうで、燃え始まった当時の写真を見せてくれた。その写真には、もくもくと広がる灰色の煙が住宅に襲いかかっている様子が映し出されていた。怖い、単純にそう思った。自然を目の前にすると、人間の力は不可抗力だ。

明日の天気は晴れ、気温も高い。どうか、雨が降ってくれるといいのだが…

14時から燃え始めた炎は、22時現在も消えていない。大好きなポートヒルズの自然、景色がこれ以上奪われませんように、そう願いながらこの日記を書いている。

今日という日の備忘録

図書館で締め切りが迫っているレポートを仕上げると昨日から決めていたものの、疲れが眠気とともに押し寄せて、結局9時くらいまでベッドの中にいた。

そんな重たい体をなんとかベッドから引き剥がして、朝食を作っていると近所で飼われている猫(通称:ミー)がいつものように入り口に来ている。朝食のサンドイッチを作るのに夢中で気づかなかったが、彼の鳴き声で気づいた。

中に入れると、いつもよりも甘えん坊なミー。ミャーと鳴きながら私の周りをうろうろ。右前脚をなんだか気にしているようだ。しばらく私の周りを歩いた後は、家の中をうろうろ。フラットオーナーさんの部屋の前に立ち止まると、変な動き。いつもとは明らかに違う様子で、オーナーさんを呼びに行き、戻ってくると吐いていた。芝生そのまま出していたので、オーナーさんは"ミー、もう少し噛んだ方がいいよ"と話しかけていた。そんなミーは掃除をしている様子を近くで見ながら、反省しているような表情をしていた。

 

図書館に行く準備をしていると、ミーの飼い主がやってきた。フラットのオーナーさんと話しているようだ。ミーの右前脚は昨日カーペットを力強く引っ掻いたせいで爪が取れ、肉球も傷ついたそうで、痛がっているのだと聞く。かわいそうではあるのだが、時々上げる前脚がなんとも可愛い。

 

それから図書館に向かうためにバスに乗り込んだ、のだが財布を忘れたことに気づく…。

図書館で課題をやる分には何も買わないし、まあいいか、と思ったが、本当は課題を終えたら自分へのご褒美を何か買いたかった。

ため息をつき、自分の情けなさを悔いながらバスを降りて図書館にトボトボ歩く。

 

今日は春節の始まり。街は多くの観光客がおり、図書館はどこの階も春節の飾り付けがなされている。

しばらく机に向かって課題をしていると、下の階からドンドコ、ジャンジャラと音がする。覗くと、楽器を演奏している子どもたちと、さらにその下の階から獅子舞のようなものが上がってくるではないか。春節のイベントが始まったようだ。たくさんの人が下の階を覗き込んで、楽しんでいる。私もその一人だ。

ちょっとしたイベントに嬉しくなり、課題も無事終えることができた。

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この図書館の最上階には、各国の国の言語で書かれた本コーナーがある。日本語の本コーナーに向かい、最近ハマっている原田マハさんの本を探す。今回は”モダン”を借りた。

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その本の近くには、カードキャプターさくらの漫画本も置いてある。なんて懐かしい。今でいうエモい、という気持ちになる。

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本を借りようとパスケースの中を確認すると、1枚のクレジットカードが!

なんてラッキーなんだ!これで課題のご褒美が買える!!!と胸が高まった。

図書館を後にして、向かう先は決まっていた。最近見つけたベトナム料理のテイクアウェイのお店だ。以前、買い物帰りに軽く何か食べたいと思い寄ったこのお店のバインミーに感動したのだった。

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今回は前回とは違う味のバインミー、トラディショナルを購入。

川近くのベンチで、夏終わりの太陽を浴びながら流れていくギースを見て、バインミーを食べる。至福のとき

NZはもう夏の終わりが近づいている。多くの人は、外でご飯を食べたり、本を読んだり、スポーツを楽しんだり、それを見たり、と太陽を逃すまいと必死だ。

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家に帰ってくると、友人からテキストが来ている。

プラムが大量にとれたからお裾分けに来てくれると。

今の時期は、チェリー、アプリコット、ピーチ、プラムと果物の天国である。その中でもチェリーは大好きで頻繁に買っていた。しかし、プラムはこちらに来てから初。プラムといえば学校給食に出ていた果物というイメージ。あまり美味しい、という記憶がなかったのだが、いただいたプラムはとてもおいしかった。甘くて濃くて、何個でも食べられる。

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今日はいろんなことがあった。朝は疲れが残っていた気がしたのに、今日という日が終わるとそんなことも忘れ、スッキリしているそんな日だった。

 

 

おばあちゃまのショートブレッド

仕事先で会うおばあちゃまからもらった手作りのショートブレッドがとても美味しかったので、作ることに決めた。

ショートブレッドはカフェに行けば大体置いてあるし、スーパーでも売っている。だからこそ、あまり手を出したことはなかった。

しかし、先週おばあちゃまからお手製のショートブレッドをいただき、衝撃を受けた。クッキーのような見た目だが、とてもソフトで尚且つ壊れそうな繊細さがある。しかし、口の近くまで運ぶとバターの甘い香りが漂い、口の中に入れるとサクサクとした食感と優しい甘さが広がる。なぜ今まで食べたことなかったんだろうと後悔した。それからというものYoutubeショートブレッドの作り方を検索する日々。どうしたら、おばあちゃまの味に近づけるだろうか。

会う機会があり、頂いたことの感謝と作ってみたいということを告げると、"よし!わかった、レシピを教えるわ!"とおばあちゃまのおばあちゃんからの秘伝(?)のレシピを教えてもらえることになった。ちょうどその場にいた、ご家族にもおばあちゃまのつくるショートブレッドに感動したことを伝えると、"グランマのレシピはいつも美味しいの"と。

どこの国でも、おばあちゃんのレシピは大体美味しいのかもしれない。私の日本にいる祖母のレシピも美味しいものばかり。

 

そのおばあちゃまと私は話す方だと思う。

というのも、畑の話で盛り上がり、それから距離が近くなったのではないかと思っている。

日本にいる時から祖母の畑を手伝うのが好きで、GWには野菜の苗を買い、畑を耕し、畝を作って、夏になれば一緒に収穫していた。

そのことをそのおばあちゃまに話すと彼女も嬉しそうに、自分の畑のことを話してくれた。豆、シルバービート、セロリ、青ネギなど、小さなガーデンにはたくさんの野菜がきれいに植えられている。クリスマスには彼女の作った豆をくれ、フラットのオーナーさんと野菜かき揚げにして美味しくいただいた。

彼女が畑になっている野菜を紹介しながら、なぜ野菜を植えているのか話してくれたことがある。彼女のひ孫に肉や野菜はどこからやってくるのか知っている?と聞いたところ、"スーパーマーケット"と答えたそうだ。それに彼女は驚き、ショックを受けて、食べ物がどこからやっているかをひ孫さんに伝えるために、野菜を育てることにしたんだそう。素敵だ。

そんな彼女の畑を私も愛おしく思い、仕事の際にはなるべく野菜を確認している。話のネタにもなるので。すると、新しくニンジンをを植えていたり、セロリの背が伸びているのに気がつく。おばあちゃまのお世話が行き届いているのが垣間見える。

 

次回、会う時にはレシピを調べてショートブレッドを作ってみたこと、おばあちゃまの作ったものよりも甘くできなかったことを伝えようと思う。きっと彼女は笑って、話を聞いてくれるだろう。

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