今日から妹とメキシコの旅が始まる。
メキシコシティから飛行機で3時間。
カンクンへ。
バスだと十何時間くらいかかるようで、妹からは「絶対、飛行機」と言われていた。
妹の滞在しているホストファミリーの家を早朝に出て、空港へ。
早朝にも関わらず、人は多い。
所謂、格安航空というのか、満席である。
航空券に書かれている到着時刻と腕時計の時間が違う…。
1時間早く着いている。
「ねえ。1時間も早く着いちゃったみたい…」と妹に言う。
眠そうに、「あ、時差が変わったんだよ。メキシコシティは日本と15時間の時差があるけど、カンクンは14時間。」
あぁなるほど。
メキシコ国内でも時差があるのか。
飛行機を降りてみると、とても熱い。
太陽の熱が差し込んで来る。
今回、カンクンに行きたいと言ったのは私だ。
メキシコといえばカンクン。
カリブ海といえば青。
見たことも無いカリブ海への憧れを抱いていたのだ。
行ったことのある友人からは、"とにかく青!見とれますよ"と言われていた。どんな青なのか。
そこまで言われてしまうと気になってしまう。
カンクンに行きたいことだけを伝え、妹に後は任せた。
"カンクンのホテルゾーンは高いから島に行こう"
ん?島?!島の方が高いのでは無いか…島ってなんなのだ?
言われるがまま連れていかれたそこは、バカンスのためにあるような、開放感に溢れていた。
ホテルに荷物を預けると、すぐにビーチへ向かう。
現地調達した水着と、タオルを持って。準備をした妹を見ると、見覚えのあるハーフパンツを履いている。
私の視線に気づいたのか、
"あ、これ?中学の時のハーフパンツ。水着の上にちょうどいいの"
しっかりと名前の刺繍も入っている。
開放感たっぷりに、清々しさも感じる。
中学のハーフパンツを履いた彼女とビーチへ歩く。
ビーチには開放感に満ち溢れた人々が横になって、太陽を求めている。
海はというと、青だ。
まるで絵の具の青を出して塗ったような青。
その青に入っていくと、心地よい水温。波に揺られて青に囲まれて、大きな空を見ると、真っ白な気持ちになった。
ビーチに戻ると、ここには何しに来たんだっけ?今日は何曜日?とふと我に返るが、青に入っていくとまた、真っ白になる。
心地よくて、真っ白になるのと、我に返るのをしばらく繰り返していた。
ホテルに戻ると、私たちはプールから帰って来た子どものように、夕飯も食べずに寝落ちてしまった。
泳いだ後の睡眠ってとても気持ちがいいことを思い出してしまった。
夏休みのプール開放や海水浴の後は、ぐっすり眠れていた。
この感じ懐かしい…なんて開放感。
人々がこの島に集まって来る理由がわかる気がした。
おそらく、この島でこの心地良さに気付く人は多くないと思うが。
翌日、朝食を摂りながら妹が言う。 「何か、フルーツ系のジュース飲みたいな…」、「近くには小さな商店があった。」、「買ってこようかな」と呟いている。
そこでふと、私は思い出す。
妹との旅は今日を入れてあと2日。
2日後には、妹は大学の授業に戻り、私はメキシコでのひとり旅となる。
ここまで、私は妹に通訳してもらい、買い物をして来た。
2日後には、ひとりで全部することになる。
それは…ハードルが高い。今だ!今しかない。
「わ、私、買って来るよ。フルーツ系のジュース。1人で買い物して来る」
メキシコではじめてのおつかいである。
「おっ、じゃあ任せようかな。」と妹。「う…ん。任せて。行ってくる!」
ホテルのエントランスを出て、近くの商店へ向かう。
店頭には飼い犬なのか、野良犬なのか、大人しく寝転んでいる。
商店に入ると、大量のコーラ。
そしてその下の段にフルーツジュース。二本手に取り、レジへ。"オラ!"と笑顔で計算する店員。
ここで気付く。
私は金額を言われても分からない…。
それを知ってか知らずか、電卓に合計を出してくれた。
無事に支払いを済ませて、ホテルへ戻る。
何となく、不安の比重が減って足取りは軽い。
「おっ、はじめてのおつかい成功」
食パンを頬張りながら言う。
その後も、妹がシャワーを浴びている時に、お土産を買いに行ったり、アイスを買ったりと、少しずつメキシコでできることを増やしていった。
この開放感溢れる島で、私の旅への不安も少しずつ開放されていく。
気持ちが軽くなるのを感じながら、青の中を走る船に乗った。