オアハカには3日程滞在した。
都会でもなく、田舎でもない、この土地の雰囲気がとても心地よかった。
オアハカを発つのは、早朝だった。
日がまだ登らない、肌寒い早朝に乗り合いタクシーが迎えに来て、ホテルと別れを告げた。
乗り合いのはずなのに、乗客は私1人。オアハカの街中を走りながら空港へ向かう。
街中をタクシーが走っていると、ようやく太陽も目を開け、光が差し込んできた。
夜明けの街は美しく、山を照らす光も、起きようとしている山の麓の町もとても綺麗で、ここに来てよかったと思わせてくれた。
搭乗までの時間、外に広がる山に目を奪われる。
山を見ながらツアーガイドさんの言葉を、思い出した。
「山は沢山あっても、細かく名前がある訳では無いんですよ」
あの綺麗に見えている山にも名前は無いのかもしれない。
名前がある山が素晴らしい訳でもないと目の前に広がる山々を見ながら思った。
飛行機のタラップまでは歩いて向かう。
外に出ると更に視野が広がって、太陽の光が差し込む町もよく見える。
綺麗、そして壮大である。
私の席は空港側で、空港職員が手を振っているのがよく見える。
「さよなら、オアハカ…」
窓の外に目を向けながらこっそり口に出す。
飛行機が、メキシコシティに向かって飛び立つと、モンテアルバンの遺跡が空の上から見えた。
贅沢な見方である。
遺跡が広いことが飛行機からもわかる。
メキシコシティの街をガイドブックで予習していると、
「私、日本に行ったことあるよ」
CAさんから声を掛けられる。
続けて、
「何かメキシコのことで、わからないことがあったら聞いて」
心遣いが嬉しかった。
間も無く、メキシコシティの土地に飛行機の脚が着くとき、機内で大きな音が鳴った。
何の音だろう。
何かが弾けた音ではない。
疑問符を頭につけて、通路を挟んで隣のご婦人を見る。
私の表情から気づいてくれたのか、ジェスチャーで
"上がっていた肘掛けが一斉に落ちた音よ" と示してくれた。
ああそうか、と納得の笑みを見せると、ご婦人も優しく笑った。
オアハカのひとり旅は、常に誰かが優しくしてくれたように思う。
そのせいか、全く寂しくなかった。
その一方でオアハカの地を離れ、寂しさを感じたのは言うまでも無い。
また戻って来よう。
ありがとう。オアハカ。