メキシコシティの初日は、妹のホストファミリー宅に滞在した。
昼頃着いて、次の日の早朝にカンクンへ旅立ったので一緒にいる時間は短かったが、とても暖かく受け入れてくれた。
家族構成は、お父さんとお父さんの母、そして猫2匹。
妹からの事前情報では、お父さんは少し日本語がわかるということで、少しホッとする。
でも、せっかくここに来たのだからスペイン語で挨拶したいものである。家までのタクシーで練習した。
しかし、日本で覚えられなかった言葉がここで覚えられるわけが無い。
これは失敗に終わる。
「オラ!」ぐらいしか言えていなかったと思う。
一方お父さんは、ハッキリとした日本語で「こんにちは」完璧である。
家の中に入ると、お父さんの母であるおばあちゃんがソファにいた。
おばあちゃんにも、妹が通訳してくれ、自己紹介は終了。
ここでも私が伝えたスペイン語は、「オラ」の一言。
タクシーの運転手さんに笑われながらの練習は意味をなさなかった。
そういえば、家族の一員のネコの姿が見えない。
妹にそっと、ネコはどこ?と聞くと、「ナター」と探してくれた。
その猫の名前は、納豆。ここでは"ナタ"という愛称が付けられているようだ。
妹とお父さんの声に誘われて、"ナタ"と初対面である。
ナタは、黒く、白い靴下を履いていた。人懐っこく、背中を撫でると、自ら撫でる手に背中を擦り寄せてくる。
そこの家族はみんな"ナタ"と呼んでいたが、私は「納豆」と呼んでいた。
"ナタ"よりも、納豆の方が愛着があるからである。
「納豆」と呼んでも近づいて来てくれる。
言語を介していない私たちは、すぐ仲良くなれた…と思っている。
翌日の早朝出発前、空港までのタクシーを待つ間本を読んでいると納豆は傍らに寄って来て、しばし私たちは一緒の時間を過ごした。それはのんびりとした閑かな、時間だった。
豆腐というネコはというと、結局会えたのは出発する直前だったので、暗くてよく見えず、撫でることも出来なかった。
妹曰く、豆腐の方が人懐っこくないそうだ。そのためか、こちらの豆腐には愛称は無く、豆腐のままである。
話は前日の夜に戻る。
着いたその日の夜、出会って数時間後に、お父さんとおばあちゃんにサヨナラの挨拶をした。
妹を介して、"両親が妹のことを心配していたけど、ステキなホストファミリーで楽しそうに暮らしているので安心しています"と伝えた。
妹は些か、訳すのに手こずっていた。そして、おばあちゃんの返答に妹は感動していた。
私は妹のフィルターを通さないとわからないので時差で感動した。
暖かなホストファミリーであった。
また、その夜、メタテ(石皿)とマノ(石棒)、モルカヘテ(すり鉢)の小さなレプリカをおばあちゃんが私へのお土産としてくれた。
感謝の気持ちを伝えたいと、妹に声をかけると、名一杯の感謝をおばあちゃんに伝えてくれた。
おばあちゃんからは、このメタテとマノ、モルカヘテという道具使って、トルティーヤの元となる生地を伸ばしたり、その他にもカカオを潰すのに使うのよとメキシコの文化を教えてもらった。
用途は様々、つまりは万能グッズである。
ほんの数時間での間ではあったが、ホストファミリー宅で過ごした時間は暖かなものであった。
おばあちゃんから貰ったメタテとマノ、モルカヘテは、現在、私の家の玄関にある。
出かけるときに、目が合うと自然と笑みがこぼれ、私にとってのパワーグッズとなっている。